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教員ブログ

顕微鏡について思うこと

 毎年この時期、1年生を対象に顕微鏡操作を教えている。中学、高校で顕微鏡をすでに覗いた学生が多いが、なかには全く触れたことがない者もいる。顕微鏡は将来の仕事の道具となるので、個々の部品名はもちろん、扱い方や禁止作法など段階的に教えていく。板前なら包丁にあたるこの道具を生涯使い続けることになるので、理解が深まるよう、野外演習など取り入れ楽しく授業をすすめている。
 顕微鏡の歴史を調べてみると、要となるレンズの歴史はかなり古く、最古のレンズは紀元前700年頃のニネヴェ(現イラク北方,アッシリアの古都)の遺跡から発掘されている。この時期のものは太陽熱を集めるために作られた水晶の平凸レンズだった。
 11世紀になるとイラクの科学者イブン・ハイサム(アルハーゼン)が、物が拡大されて見えるのはレンズの表面が曲がっているからだと指摘した。1285年イタリアでアルタマスがガラスを眼鏡レンズとして登場させ、1590年にオランダのヤンセンが凸レンズを2個組み合わせ大きな倍率を得ようと試み、1660年にはイタリアのマルピーギが毛細血管を、1665年にはイギリスのフックが細胞を観察、発見した。またこの時代にオランダのレーウェンフックは顕微鏡を自作し、レンズに磨きをかけ200倍以上の倍率を得ることに成功した。
 現在の顕微鏡は過去の技術の積み重ねとLEDライト、高性能レンズ、レーザーなどハイテクとの集大成である。このボディには3000年以上の歴史が刻まれている。私はこの人類の英知の結晶を使って細胞を観察し、数え切れない数の診断に関わってきた。臨床の場では驚きと発見の連続だった。最近では顕微鏡で仕事する職種がコミックやテレビドラマで目にすることがある。表舞台に現れることがないこの職種の素晴らしさを、少しでも学生達へ伝えることができれば幸いである。