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Fly me to the moon ある生理学者より

 1969年、アメリカは人間を月に送り込むことに成功します。ここに至る米・ソを中心とする長い宇宙開発の道を振り返ってみましょう。
 第二次世界大戦中にドイツでV1、あるいはV2ロケットを開発した科学者・技術者は戦後、アメリカ・ソ連に渡って各々の国でロケット開発に従事します。当初、ソ連が次々と華々しい成果を挙げて行きます。1957年の人工衛星打ち上げ成功、1961年の有人宇宙飛行成功、これらはいずれもソ連の挙げた成果です。後れを取ったアメリカでは、1961年に就任したJ F. ケネディ大統領が「60年代の終わりまでに月に人間を到着させる」と演説します。ケネディは1963年に暗殺されますが、彼の演説(約束)は、はじめに記しましたように、ぎりぎりで果たされることになったのです。
 この宇宙開発競争の中で生まれた一つの技術があります。今回はそれを紹介しましょう。そのきっかけになったのは、地球から遠く離れて「宇宙船」あるいは「月面」にいる宇宙飛行士の身体機能、中でも心臓の機能を把握したいという、当時のNASA(アメリカ航空宇宙局)の要求でした。NASAの要求に応えたのがimpedance cardiogramインピーダンス心臓図(インピーダンスとは交流電流の抵抗に相当するもの)と呼ばれる技術です。impedance cardiogramは、人体に弱い交流電流を流してインピーダンスの時間的変化を測定し、それから心拍出量(心臓から押し出される血液の量)を求めるものです。
 impedance cardiogramは非侵襲的に心拍出量を遠く離れたところから測定できるとして期待されましたが、データの信頼性などに問題があって廃れていきました。しかし、最近、改善されたものが再び脚光を浴びています。