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健康保健センターニュースNo.8『侵襲性髄膜炎菌感染症の発生がありました!』

侵襲性髄膜炎菌感染症の発生がありました!

健康保健センターニュース No.8

はじめに

 昨年の201695日に比較的稀な感染症である侵襲性髄膜炎菌感染症の届出が神戸市にありました。

 髄膜炎菌性髄膜炎は昭和20年代までわが国でも多く発生していたため、法定伝染病(流行性脳脊髄炎)となっていましたが、1950年代から減少の一途を辿り、近年は報告数も少なくなっていました。しかし、20115月に宮崎県小林市の高校の野球部の寮で集団感染が起こり、内1名が死亡したのをきっかけに、2012年に学校保健安全法施行規則の一部改正が行われ、髄膜炎菌性髄膜炎は第2種の学校感染症に追加されており、他者への感染の恐れがないと認められるまで出席の停止が義務付けられています。

近年では5月に三重県内の全寮制高校で髄膜炎菌性髄膜炎が発生した2013年には23例、201437例、201532例と推移しています。このため感染症法では201341日からこれまでの届出対象疾患の五類感染症「髄膜炎菌性髄膜炎」から名称が「侵襲性髄膜炎菌感染症(髄液または血液から髄膜炎菌が検出された場合)」に変更され全数把握対象疾患(五類感染症)となっており、診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届け出ることが義務付けられています。

髄膜炎菌(Neisseria meningitidis)とは?

 咳やくしゃみなどによってヒトからヒトに飛沫感染するグラム陰性球菌です。鼻咽頭などに保菌されることもありますが、日本における健常人の保菌率は約0.4%と低頻度なため、浸淫率が低い原因でもあります。

髄膜炎菌の血清型は13種類ありますが、病原性のあるものはA群、B群、C群、Y群、W-135群の5種類があります。この中で大規模流行を起こす血清型はA群、B群、C群です。日本ではB群とY群が主流ですが、ここ数年はY群によるものが多い傾向になっています。

この細菌自体、淋菌と同じく低温や42度以上の高温にも弱いものですが、学生寮などで共同生活を行う10代が最もリスクが高いとされており、前述のように時々アウトブレイクを起こしては注目されています。そのため、患者発生時には感染拡大防止のため迅速に積極的疫学調査(家族や関係者の鼻咽頭細菌検査など)が必要です。患者に関わる関係者の保菌率が有意に上昇していることが明らかになっています。

侵襲性髄膜炎菌感染症とは

 髄膜炎菌による侵襲性感染症(本来無菌環境と考えられる部位から起因菌が分離された感染症)のうち、本菌が髄液または血液から検出された感染症のことを言います。

 乳幼児だけでなく学生寮などで共同生活を送っている10代の若い人たちの間でも流行が見られています。

感染の症状と一般的な予防

飛沫により粘膜感染する髄膜炎菌の潜伏期間は210日(平均4日)で、発症は突発的です。

感染初期に特徴的な症状は特にありませんが、突発的に全身症状として頭痛、発熱、嘔吐以外に髄膜炎に特徴的な髄膜刺激症状(Kernig徴候、項部強直など)が見られます。乳児では大泉門膨隆等の症状が認められます。中には経過中に出血斑が体幹や下肢などに認められ、次第に壊死化してきます(写真参照)。また、点状出血が眼球結膜、口腔粘膜や皮膚に認められることもあります。重症化すると意識障害、痙攣、ショックなどに進展することがあります

フィリピン症例(サン・ラザロ病院)

咳、くしゃみなどのしぶきと共に放出された髄膜炎菌を鼻腔から吸入することによって感染します。本菌を拡散させないためにも、保菌者・周囲の人が共にサージカルマスクを着用することが効果的です。

また、保菌者とのキスや飛び散った本菌が付着したものを直接手で触ると、鼻や口などを介して感染することがあります。石鹸による手洗いが感染を防ぐうえで有効なのはそのためです。また手指のアルコール消毒も有効です。

空気が乾燥すると、喉の粘膜の防御機能が低くなるため、本菌にかかりやすくなります。うがいや、乾燥しやすい冬場の室内では、加湿器などを使って5060%の湿度に保つことも効果的と思われます。

治療と予防のポイント

 患者に対しては抗菌薬による治療を行います。重症化しないためには早期に治療を開始することが重要です。また、本菌は多くの抗菌薬に対してよく効きます。

 侵襲性髄膜炎菌感染症の予防にはワクチン接種や抗菌薬の予防内服が有効です。ハイリスクグループとして若年層で寮生活をする人、免疫の低下した人、脾臓を摘出した人、慢性中耳炎・鼻炎・副鼻腔炎の患者、HIV感染者などが挙げられます。

 髄膜炎菌ワクチンは日本では4価結合型ワクチン(血清型ACYW135群)が承認されています(任意予防接種)。血清型B群に対しては未だ有効なワクチンがありません。抗菌薬の予防内服は感染拡大阻止として患者との濃厚接触者に勧奨されます。

まとめ

最近になって再び髄膜炎菌性髄膜炎という言葉を聞くようになってきましたが、ここにきて昨年9月神戸市内でも侵襲性髄膜炎菌感染症の発生報告がありました。一人の患者が発生すると多くの人が感染の危険に晒されますので、常に油断をせず、マスクや手洗い・うがいなどでしっかり予防できる病気は予防しましょう。もちろん、今年になってから全国的に大流行しているインフルエンザに対するワクチン接種も。よろしくお願いいたします。

【参考】

国立感染症研究所 感染症情報センター
http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-idsc.html

国立感染症研究所[特集]侵襲性髄膜炎菌感染症 IASR Vol.34 No.12(No.406) 

神戸市感染性情報[特集]侵襲性髄膜炎菌感染症