短期大学部 口腔保健学科Oral Health

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【口腔保健学科】解剖見学実習

雑感:遺体解剖見学実習

「いのち」を実感する機会

 近畿地方が梅雨入りした最初の土曜日である平成30年6月9日、大阪歯科大学樟葉学舎において遺体解剖見学実習が行われました。この実習は本学科1年生の解剖学の授業を補完するという位置づけで設定されてはいますが、本学科の「いのちの大切さにする」という教育理念を実感するという意義を持っています。新入生にとっては初めての学外実習であり緊張感に包まれる1日ですが、午前9時20分の集合時間には遅れてくる者もおり、これから経験するご遺体との対面への畏怖などはこの時点ではとても感じられませんでした。以下、6月9日の学生の動きとその時々の雑感を時系列でレポートします。

組織学実習(顕微鏡実習)

 午前中は顕微鏡の操作から始まる組織学実習です。高価な生物顕微鏡を使用して、3つの組織標本を観察しスケッチします。口唇は口腔粘膜・赤唇・皮膚という3種類の上皮が観察できる組織です。また、舌下腺は粘液細胞に加えて漿液半月が観察できます。ついで、舌の切片です。有郭乳頭と郭内側の上皮内に認められる味蕾を観察します。最初の実習ということもあり、また、貴重な標本を割ってはいけないという緊張感から操作にぎこちなさがみられていましたが、徐々に慣れてくると、標的のポイントを発見できた時には歓声を上げるなどたのしく実習ができたようです。

遺体解剖の見学実習

 午後は、大阪歯科大学「黄菊会」(遺体提供の会)より提供されたご遺体11体の解剖見学です。た。解剖実習室には保存液の独特なにおいがたちこめています。学生に限らず心をひるませるある種霊的な雰囲気がただよっており、私はいつも圧倒されます。実習を始めるにあたっての心得を黄菊会の歴史をなぞりながら竹村教授が約30分間講義されました。少々長いと感じられたこの話は、布で包まれたご遺体を前にしながら行われ、すぐそばに着座して聞く学生にとっては心の平静を取り戻すのには役立ったのではないかと思います。3時間の実習時間中に気分不良を訴えたものはいませんでした。
 すでに歯科大学学生によって細部まで解剖されているご遺体は、各臓器が取り出せる状態になっています。まず、前胸部を肋骨ごとめくりあげると肺、心臓が現れます。本学非常勤講師の清水先生による的確な説明が滑らかに進みます。肝臓、胆のう、すい臓、腎臓、脾臓など実際に臓器を手に持ちながら確認していきます。噴門部で切断された胃を幽門部から十二指腸までみた後、小腸を回腸まで追い、その後回盲部と肛門直前で切断された大腸を盲腸から直腸まで確認しました。胃から排泄部までの壮大な消化器の路をたどることで、最後に残された食物の入り口である口腔、咽喉頭部への連想を掻き立てる見事な展開をでした。
 終盤は頭頚部です。脳をじっくりと確認した後、正中で左右に矢状断された顔面を鼻腔、口蓋と進み、口腔に入ります。舌と舌骨の関係を確認後、咽頭腔から喉頭の形態と機能を確認します。輪状軟骨で常に管腔形態が確保された気管と筋肉のみで構成され通常は閉じている食道との違いを理解しながら、喉頭蓋が気管をふさぐことで食物が食道に送り込まれ、喉頭蓋が開き気管が解放されることで空気が肺に送られるさまを実感することができました。
 一方で、レジン包埋模型による顎関節部の構造や小児の頭蓋骨、実際の胎児など一般では見ることができない標本を見学しました。女性である学生にとっては、子宮の位置や形態を実際に確認したことも含めて衝撃的な体験でしたが、同時に普段は決して行儀が良いとはいえない学生が涙を見せる場面もあり深い感銘を受けたのではないかと思われました。

卒業生の参加

 今回の実習では2期生から7期生の本学科既卒者6人が参加しました。組織学実習では、口唇や唾液腺、舌といった普段患者さんの口腔内で親しんでいる臓器が、顕微鏡で見るミクロな世界を通してさらに身近なものになったようです。解剖実習においても、臨床では理解しにくい摂食・嚥下の解剖学的実相が手に取るように理解でき、実習後の感想では大いに役立ったと興奮気味に語っていたのが印象的でした。
 また、解剖実習では各テーブルに1人ずつ既卒者を配置しました。新入生と同様に最初は恐る恐るのスタートでしたが、徐々にイニシアティブを発揮し、ともすれば消極的になりがちな1年生をリードする場面が見られ、世代を超えた共同作業がよい結果を生むことを実感できました。このような形態の授業は今後もあらゆる場面で取り入れる必要を感じました。

最後に

 今年で2回目の実施となるこの遺体解剖見学実習は、昨年に比較してはるかにスムースに運びました。1年生64人全員が参加し、また誰ひとりとして途中で脱落することなく実習を終えられたことは特筆すべきことです。さらに、今回は既卒者の参加があり、新入学生によい影響を与えたことも記しておきます。同窓である先輩が積極的かつ真摯な態度を見せることにより、やる気スイッチを押された学生もいたのではないかと思います。学生の驚きや興味に満ちた顔は、学内の講義や実習では決してみられないものでした。ただ、1度の経験だけでモチベーションを長く継続させることは困難です。小豆島体験授業やボランティアなど年に何回かこのような経験をさせることが必要かもしれません。そのような意味から本実習は今後も継続することが望ましく、希望すれば2年生、3年生でも参加が可能になるようなシステムも必要でしょう。また、頭頚部の詳細な解剖は歯科衛生士に特化した内容で進められる解剖学に精通した歯科医師による指導が効果的であることも感じました。
 最後に、超多忙な大学教育のなか、丸1日の時間を割いてこの実習にご協力いただいた大阪歯科大学解剖学講座主任教授の竹村明道先生および助教川島渉先生には甚大なる感謝を申し上げます。そして、大学との連携役を担っていただいた清水孝治先生に深謝申し上げるとともに、学生や既卒者との連絡を密に行いスムースな実習完遂のために努力していただいた福田昌代准教授、学生引率において終始緊張を和らげながら的確な助言をいただいた柳田学教授に感謝いたします。

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