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日本人の死亡原因第一位であるがんは、細胞の病気です。人間の体にある60兆個もの細胞の中には、自由勝手に増え続け、生命をおびやかす細胞ができることがあります。これががん細胞です。日本人の3人に1人ががんによって亡くなっているともいわれ、昔は不治の病として恐れられていましたが、医療が進歩した現在では、早期に発見すれば治る病気になりました。様々な人から採取される、いろんな部分の細胞の中から、顕微鏡を使ってがん細胞を見つけ出し、早期発見に貢献しているのが細胞検査士なのです。
この講義は、細胞検査士の資格取得を目指す学生を対象とした、約900時間におよぶトレーニングの中のひとつのカリキュラムです。通常は、資格の取得条件として臨床検査技師になってから病理検査の業務(勤務)実績が1年間必要なのですが、本学科の学生たちは、授業の中で細胞の検査法を学ぶことにより、在学中に細胞検査士の試験を受け、合格することを目指してします。ただし、資格を取得するには臨床検査技師の資格を持っていることが絶対条件なので、この時点では”仮免許“のような状態です。そして、卒業後に発表される臨床検査技師の国家試験の合格により、自動的にダブルライセンスを取得できるというわけです。他の5つの大学の中には、合格率が100%という学校もあり、在学中の受験が成果を上げやすいという結果が出ています。
細胞の中には、正常な良性細胞とがん化した悪性細胞がありますが、一目見てすぐにわかるような特徴的なものばかりではありません。一般的には、スライドガラスに塗りつけられた細胞の標本を染色液で染め、顕微鏡を使ってその形状などをもとに判断をするのですが、良性細胞の中にも形が異常なもの、逆に悪性細胞なのに限りなく良性細胞に近いものなど、様々な細胞があるのです。その境界を見分けられるようになるためには、できるだけたくさんの細胞を検査し、経験を積み、知識をつけていくしかありません。
そこで、講義の中では時間の許される限りたくさんの標本を見たり、鑑別したりといった演習を何度も繰り返し行います。例えば、婦人科であれば子宮の細胞だけを1ヵ月に渡って見ていくこともあります。良性と悪性を1週間ごとに交互に見ていくことで、区別の難しい境界を見抜く力を養うのです。
また、近畿各地の医療機関や施設などで、現場の第一線で活躍されている細胞検査士や、細胞診断を専門に行う医師である細胞診専門医など、いろいろな先生方をお迎えして、実際に診断に使われた標本を見ていきます。本物のがん患者さんの標本を見たり、類似症例と比較をしたり、現場で行われた判断を学ぶことで、即戦力として通用する力を身につけることができます。毎日何百人もの細胞を見ている現役の先生と直接話ができることも魅力です。さらに、実習室に、2台の45型液晶ディスプレイを設置して、顕微鏡の画像を大型画面に映し出しながら、複数人でのディスカッションができるようにしています。「この細胞はなんだろう?」と疑問に思った場合も、その場で教員と全ての学生が確認しあうことができます。
医療検査の初期段階で行われるレントゲンやMRI、CTなどの画像診断のほうが、皆さんにとってはもっと身近で、イメージしやすいものかもしれません。しかし、これらの検査では、残念ながら細胞の良性・悪性までは診断することはできないのです。細胞検査により、細胞検査士が発見したがん細胞や疑わしいと思われる細胞について、細胞診専門医とのダブルチェックが加わって診断されるのです。
つまり、細胞検査士は早期に病気の徴候を発見し、人の命を救うことができる素晴らしい仕事なのです。半面、見落としや判断ミスによって、患者の命に関わる事態をまねく恐れもあるので一人前の細胞検査士になるには長年の経験と努力が必要です。在学中にひとつでもたくさんの知識や技術を習得できるよう、一緒に頑張っていきましょう。
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医療現場では、すでに定着し診断に欠かせない遺伝子・染色体検査ですが、臨床検査技師が行う他の検査に比べるとその歴史は新しく、まだまだ発展し続けている分野です。遺伝子検査と聞くと、卵や精子の中に含まれるDNAによって親から子に伝わる遺伝子の検査(正確には、遺伝学的検査と言います)を思い浮かべる方が多いかもしれませんが、他にもさまざまな種類があるのです。たとえば、白血病の遺伝子検査のような、後天的に生じた遺伝子異常の検査や、肝炎など感染症の原因となるウイルスの中にある核酸(DNAまたはRNA)が、患者の血液の中にあるかどうかを調べることなども、すべて遺伝子検査なのです。
本実習は3年後期に始まります。それに先がけて、2年次には基本的な検査法の原理や、遺伝病、がん、感染症などの疾患の臨床応用例を学び、締めくくりとして遺伝子診断の専門家である上田学長から、倫理面について教えていただきます。なぜなら、遺伝子・染色体検査から得られるデータは、検査を受けた本人だけでなく、その家族や子孫にまで影響を与える情報が含まれている、大変重要なものだからです。例えば、母親から遺伝病の遺伝子が見つかった場合、生まれてくる子どもにも遺伝病の可能性が考えられます。そのため、臨床検査技師は遺伝子の検査原理を十分に理解しながら、自分の出したデータがどういう意味をもっているのかを考え、責任をもって正確なデータを提供しなければなりません。この実習では、まず始めに白血病の細胞などから核酸(DNAやRNA)を抽出します。次に、抽出したごくごく少量の核酸から、検出したい遺伝子だけを100万倍にも増幅する「PCR法」という検査法を学びます。
さらに電気泳動など、無色透明のDNAを目に見えるようにするためのプロセスも実践してもらいます。実験内容に関する講義を行ってから、教師がデモンストレーションをしてみせ、それから学生に挑戦してもらいます。遺伝子検査実習で扱う検体は、他の科目の実習に比べると少量なので、とまどう学生が少なくありません。また、DNAやRNAは汗や唾液、雑菌などによって壊れてしまうので慎重に作業をしなければならず、最初は疲れてしまう学生もいます。しかし、講義で習得した原理や倫理観を基に、自分の手を動かして検査を行うことにより、今まで目に見えなかった遺伝子を身近に感じることができるようになります。PCR法で増幅されたDNAが、紫外線ランプの光でオレンジ色に浮かび上がるのを見れば、きっと感動することでしょう。
生活習慣病などの診断が、様々な検査データや症状によって導かれるのに対し、遺伝病については、その原因となる遺伝子を持っているかどうかという遺伝子検査の結果が、そのまま最終的な診断結果につながるのですから、正確な検査データを導き出すことがとても重要です。技術のトレーニングも大切ですが、検査法の原理を理解していることはもちろん、誤った結果が出るなど、トラブルが起こったときに、どうしてうまくいかなかったのかを自らが考え理解することが必要です。講義の中では、「なぜ、こうしなければいけないのか?」「なぜ、このようなデータが出るのか?」などの「なぜ?」の部分を学生に直接問いかけたり、実習中にマンツーマンでディスカッションをしたりして、疑問を解決していきます。また、実習後に提出してもらうレポートも、学生が「本当にわかった」と納得するまで、何度でも添削を繰り返します。講義、実習、レポート作成を通して基礎力を身に付けておくことで、学校で習った検査法だけでなく、現場で機械によって自動化されたものや、さらに将来開発される新しい検査法など、それらの検査の原理を自ら理解し、考え、応用する力を養うことができるでしょう。遺伝子検査の急速な発展にともない、今日、新しい検査法がどんどん開発されています。近い将来、常盤で学んだ皆さんが新しい検査法を自ら作り出せるような専門家になってくれたらうれしいですね。










